鰻食ふことに疲れてをりにけり 相沢文子
日の匂ひ変はりはじめて秋の蝶 平尾昌子
春を待つ心すべての生き物に 伊東法子
解かれたる苦しみ君の夜ぞ長き 奥村 里
初音聞く愚陀仏庵の畳かな 塚本武州
春風や伝統俳句学ばんと 武田奈々
新茶酌むつひの雫の音たかく 武田優子
句碑抜き今宵の銀河濃かりけり 池末朱実
見るからに元気な子等の菖蒲風呂 今橋周子
シリウスの青き静寂や絵踏の夜 酒井湧水

肆
野分会の俳句
能面のうすきくちびる五月闇
迷ひなき蟻の歩みにある浮力
昼寝覚いま現し世に降り立てり
寄せて引くさざなみのごと踊の輪
武田優子
ポラリスも北斗も朧なりしかな
うみへび座全容見せて夏に入る
夜業の灯消えて頭上に白鳥座
聖夜待つ空に一等星七つ
池末朱実
1963年11月、京都府木津川市生まれ。帝塚山短大卒業。
ホトトギス初投句は、1992年。
コロナ禍が落ち着いたら、星のソムリエの資格を取ろうと思います。
菖蒲風呂より飛び出してきたる子等
節分の鬼のなかなか帰宅せず
父の日と早起きの子等騒ぎけり
父の日を終へて疲れてをりし父
今橋周子
1985年徳島生まれ
2007年よりホトトギス投句
2016年第27回日本伝統俳句協会新人賞受賞
2児の育児に奮闘しつつ、小さな日常を詠んでいます。
つばくらにだけ見える風触るる風
母の日や母に会はざる年重ね
ホスピスに寄せては返す蟬時雨
虎落笛さへも絶えたり津波跡
酒井湧水
1960年、兵庫県生まれ。本名・俊弘。カトリック大阪大司教区補佐司教。ホトトギス同人。2012年、朝日俳壇賞。句集『神の手』。
音のなき世界の中に桜散る
ハンカチを探す鞄に入れたる手
崩れないやうに崩してかき氷
山門に犬と少年蝉時雨
伊東法子
神奈川県出身。第13回日本伝統俳句協会新人賞受賞。武蔵野女子大学大学院紀要第3号「小林一茶と仏教」。浄土真宗本願寺派立徳寺住職。
賜はりし試練も楽し春を待つ
漱石も子規も来てゐる虚子忌かな
良き言葉佳き事結ぶ白露の日
山茶花の白き花びら散りて
奥村 里
徳島県生れ。1999年よりホトトギス投句。2005年日本伝統俳句協会新人賞。2008年ホトトギス同人。水瓶座A型美味しい料理美味しいお酒を好む。元高校教師。
始まりはアダムとイブのくさめかな
遠き蟻氣付けば足の裏に蟻
ナイターの後のラーメン大盛りに
炊き立てを待てず酢茎の爪楊枝
塚本武州
1969年東京都生、神戸市在住。
俳号の「武州」は、書道家の父が命名。茶道家の母の影響で俳句を始める。
海外5カ国、計15年駐在。21年4月より野分会入会。
しろがねの山女くがねの水飛沫
あぢさゐのいろすきとほる雨上り
香まとふ葉書の届く文月かな
秋風や窓の数だけ空のいろ
武田奈々

水馬光の靴を履きにけり
ヨット行く青き地球を傾かせ
深く吸ふほどに梅の香遠ざかる
大空に根を張るごとき枯木かな
笹尾清一路
「九年母会」「ホトトギス」同人
2017年「野分会」入会、稲畑廣太郎に師事。
父と子の同じ形で寝る良夜
よく眠る子を抱きつつ花祭
乾くまで待てば夕暮涅槃西風
朝顔を褒めて回覧板渡す
相沢文子
1974年新潟県生まれ。
1999年より俳句をはじめる。
上流の自由と孤独山女かな
本閉ぢて眠る押花五月闇
囮鳴き森の匂ひの動きけり
アルプスを連れて風花湖面へと
平尾昌子
1967年大阪生まれ。東京・静岡在住
2016年芭蕉記念館の俳句入門講座に参加。
2020年よりホトトギスに投句
植物を育てるのが大好きです。