春を待つ心すべての生き物に 伊東法子
流れ星リュックサックの枕かな 松藤素子
瑠璃色の空を突き抜け虹渡る 伴 統子
蜃気楼貝の吐息の細長し 細谷志帆
こぼれてもこぼれてもなほ濃紅梅 栗原ゆみ
たくましき根の力より生ふ若葉 花川和久
踊子の幼なじみと分かるまで 河野ひろみ
天高しダムに小さく人のゐて 岸田祐子
麦笛のおと青く胸ふくらませ 稲垣碧星
しめやかな日本晴や憂国忌 菅谷 糸
ままごとの一枚の葉に春を盛る 椋 麻里子
手のひらにのるほどの靴春を待つ 涌羅由美

弐
野分会の俳句
黒文字の切つ先白し利休の忌
大原志産屋に還りたるいのち
今生の苺をつぶす銀の匙
鐘一撞端居の黙を破りたる
稲垣碧星
1971年生れ、京都市出身。
大阪、神戸、横浜を経て三重県伊賀市在住。元ケーキ屋。社会保険労務士。2023年より虚子系の年輪に投句。24年ホトトギス購読、25年野分会入会。
秋蝶の影掠めたる神の道
晴れきつてじよんから節や文化の日
冬晴の果てまで雲の糸曳いて
餅配祖母の重箱のみぞ知る
菅谷 糸
1977年東京都生まれ。
2018年より日本伝統俳句協会の卯浪俳句教室にて俳句を学び始める。
2022年『ホトトギス』野分会に入会。
秋高し大縄跳びにまた一人
ふゆごもり紙の動物園の中
紙魚の喰ふ兄と私のぐりとぐら
記念日の薔薇一本の重さかな
椋 麻里子
1983年12月28日生 鳥取県
ホトトギス投句歴6年。
第32回日本伝統俳句協会賞新人賞受賞。好きなことは「食」。作るのも食べるのも好き。
はらはらと散りひらひらと蝶となり
白き歯の見えて勝利の日焼顔
島の子とひと目でわかる泳ぎかな
リスト弾く第一音にある淑気
涌羅由美
神戸市在住。ライフワークは、俳句と音楽そしてスポーツ。豊かな自然の恵みに感謝しながら、音楽を奏でるように詩情豊かな句を詠んでいきたいです。句集『音色』
一億の悲しみを背に山笑ふ
皐月富士より賜りし水に生く
存在の軽さ重さや蚯蚓鳴く
関東の地平の果てに鳥帰る
栗原ゆみ
静岡県生まれ。幼少期、祖母とともに俳句に親しむ。2010年よりホトトギスに投句を始める。
二児の保護者。
七十年瞬く戦後星流る
親は親子は子の役目煤払
咲く力咲かせる思ひ寒牡丹
きのふにはなき風のおと秋立ちぬ
花川和久
1966年生まれ。岐阜市在住。旅行社とブティックを営んでいます。仕事上、旅行中の景色を句に詠むことが多く、また、お客様との話題の中で俳句の魅力を伝えるよう心掛けています。
気負はずに文月の空透きとほる
知恵の輪に思考絡まり蝉時雨
本当の幸せ悟る冬のばら
鮮やかなアスパラガスの日曜日
河野ひろみ
2002年よりホトトギス投句。スイーツ大好き。King Gnu、back number、吉井和哉に夢中。元バンギャ。
散り際のもつとも赤き冬薔薇
紅白の梅の十三回忌かな
花冷の土の香りの雨となる
さみだるる自動販売機の光
岸田祐子
第20回日本伝統俳句協会新人賞
2009年よりホトトギスに投句
ビールとダムが好き。
タロットカードを使って俳句を占っています。
音のなき世界の中に桜散る
ハンカチを探す鞄に入れたる手
崩れないやうに崩してかき氷
山門に犬と少年蝉時雨
伊東法子
神奈川県出身。第13回日本伝統俳句協会新人賞受賞。武蔵野女子大学大学院紀要第3号「小林一茶と仏教」。浄土真宗本願寺派立徳寺住職。
冷ややかな音突き抜けるホームラン
ただいまをすり抜けてゆく春の猫
父となりサンタクロースともなりぬ
落つるとも堕つることなき花椿
松藤素子
香港生まれ。ジュネーブで知り合った鳴戸まり子さんに誘われ2015年に野分会入会。2021年ホトトギス同人。
祖父はホトトギス同人の松藤夏山。
向日葵が飛行機雲を引つ張つて
蛍を風葬に付す神田川
ただこなす日々を重ねて夏の逝く
どうしてもタイム縮まず鰯雲
伴 統子
1982年岡山県倉敷市生まれ、東京都在住。
母の影響で俳句を始める。
麦笛の音を待ち侘ぶ里の風
風涼し明治を運ぶ製糸場
誠実に生きる夏蚕の白さかな
蟬時雨片目だるまを癒しつつ
細谷志帆
自然や日常の小さな輝きを大切に見つめ、俳句に取り組んでいます。詠む人の心に、少しでも思いが届くように、四季の彩りや移ろいを深く感じ合える一句を目指しています。
