top of page
​二〇二三年十二月の句会より
熊もまた人に会ひたくなき山路    涌羅由美
おさんどん蕎麦に暇なし主婦の除夜  西尾浩子
著ぶくれの肩の重さといふ安堵    酒井湧水
全身の愚痴集めたる息白し      藏本 翔
熊穴に入り爪痕の木々の黙      木村直子
日記読み返せば除夜の独り言     伊藤法子
似てきたる親子の背中おでん屋に   奥村 里
北風を勝者の息の走りゆく      松村史基
除夜の湯の大きくわれを包みけり   進藤剛至
熊穴に入るや山河の実りもて     吉岡簫子
​野分会 十二月の十句
雪の中を走る
​今月の十句
​二〇二三年十一月の句会より
凩の吹き込む峡にある奈落      中村恵美
青空の柚子を剥がして籠の中     杉森大介
大綿の風に蹴られて落ちにけり    武藤星江
茶の花や雨の優しきひとところ    葛原由起
冬帝や立坑櫓シルエット       藏本 翔
サンルーフ開けて見上ぐる冬日濃し 鳴戸まり子
目尻より微笑みを読む小六月     山田翔太
ビロードを纏ふなぞへや草紅葉    涌羅由美
根に力蓄へ枯葉落としけり      花川和久
落葉蹴りちらしてをさな巨人めく   椋麻里子
​野分会 十一月の十句
​二〇二三年十月の句会より
猿酒や森の命の一雫         奥村 里
スポーツの日や校庭に百の白     塚本武州
昔日を刻み秋日の石畳        中村恵美
朽ちてゆくものを弔ひ残る菊     武藤星江
雲に乗り天を駆けるやましら酒    野澤幸彦
皆出かけスポーツの日の大あくび   葛原由起
秋高し飛行機雲の交差点      椋 麻里子
松手入されて沁み入る入日かな    菅谷 糸
スポーツの日の上る旗光る楯     山田翔太
猿酒に月の雫の隠し味        荒井桂子
​野分会 十月の十句
​二〇二三年九月の句会より
一晩を削り続ける轡虫        松村史基
濁流の色の唐突秋出水        伴 統子
がちゃがちゃの湯舟に響く午前二時  秋山龍郎
高岩に巻き付きながら落つる霧    荒井桂子
コスモスの風にもまれて決まる色   武藤星江
日本は水に浮きをり秋出水     笹尾清一路
秋日傘思案の影の動かざる      涌羅由美
名月の山へと座して雲の波      杉森大介
秋出水あとに残りし大樹かな     木村直子
その声の無表情めく轡虫       進藤剛至
​野分会 九月の十句
​二〇二三年八月の句会より
東京の空の小さく霊迎        岸田祐子
すこやかに隠元豆のねぢれをり    武田優子
新秋を笊に盛り分け青物屋      酒井湧水
残照を曳く船笛の秋めける      中村恵美
迎火や無音の闇に気配ふと      山田翔太
隠元をくたくたにして鬱憤も     小寺美紀
野球部の西日へ干せるユニホーム   松村史基
一発にどどと始まる花火かな     荒井桂子
くちびるの皺に隠元豆ふれて     進藤剛至
迎火に影もうひとつ加はりぬ     武田奈々
​野分会 八月の十句
​二〇二三年七月の句会より
虚子の道学ぶ我らの夏座敷      涌羅由美
水澄空を回してをりにけり      松村史基
日焼して草の匂ひを付け帰る     杉森大介
湖の色森の色秘めラムネ玉      葛原由起
いかづちの響きて句座の締まりけり  荒川裕紀
少年の顔して射的場の夏       山田佳乃
姨の魂宿す大木蝉の声        花川和久
水音の中より生るる夏の蝶      相沢文子
万緑のうねりせり出し千曲川     井上大輔
ともに銃構へ湯町の涼風に      阪西敦子
​野分会 七月の十句
​二〇二三年六月の句会より
スコープの捉へてしまふ子鹿かな   松村史基
青空や一八の白一列に        伴 統子
黒南風やチョークの軋む五時間目   涌羅由美
蝙蝠や黄昏といふ波に舞ひ      菅谷 糸
一八を結び目として茅舎かな     吉岡簫子
すこしづつ寄る人の子も鹿の子も   阪西敦子
軒先へ押し寄せてくる茂かな     花川和久
花苔の照らす径も猫の道      椋 麻里子
一八や藁葺きを守る集落に      西尾浩子
眼を瞑りながら親鹿見てをりし    塚本武州
​野分会 六月の十句
​二〇二三年五月の句会より
天井の高さ見上げし五旬節      伊東法子
通り雨余花に魂宿したる       荒川裕紀
カーテンをそつと誘ふ若葉風     酒井湧水
消ゆるまで目で追ふ背中余花の雨  笹尾清一路
山法師白に始まる森の詩       涌羅由美
闇の中ペンテコステの希望の灯    塚本武州
青鷺の餌を見つけてより不動     荒井桂子
余花の雨遠野を暗く暗くして     岸田祐子
この夜を五色に濡らす河鹿かな    松村史基
絵硝子の緋のことさらに五旬節    武田奈々
​野分会 五月の十句
​二〇二三年四月の句会より
棘よりも小さく海胆の歩みをり    進藤剛至
さりさりとのの字におろす山葵かな  武田奈々
をちこちに小気味よい音夏近し    椋麻里子
黄塵に更けて日帰り旅終わる     花川和久
受け継ぎし急須にほどけゆく新茶   菅谷 糸
わさび田や水の階木々の屋根     吉岡簫子
島の子の素潜り海胆をひと突に    涌羅由美
スカーフのピンクひらめく春の街  渡辺真理子
海胆歩く光の届く海の底       石丸雄介
しろがねの水に山葵の色生るる    武田優子
​野分会 四月の十句
​二〇二三年三月の句会より
三月十一日弦の音空へ        武田奈々
ひとつづつ色の増えゆくはだれかな 笹尾清一路
大海の落暉帰雁の影をのむ      中村恵美
しばらくは苔に生かされ落椿     武藤星江
絵は夢を粒は現や種袋        塚本武州
みな海へ祈る三月十一日       西尾浩子
ものの芽のひとつひとつに詩心    涌羅由美
春光の家具なき部屋となりにけり   松村史基
鈍色の記憶三月十一日        荒井桂子
斑雪野の湿りて土の息吹かな     木村直子
​野分会 三月の十句
​二〇二三年二月の句会より
立春の硝子に触れてゐる目覚め    阪西敦子
汀子忌や車飛ばしてみたくなる    西尾浩子
色四分香り八分といふ梅見      酒井湧水
告白の二文字の遠く卒業す      杉森大介
汀子忌のペットボトルの緑茶かな   相沢文子
春立つやノートに記すひと文字め   武田優子
春愁は鏡の奥の眼差しへ       山田翔太
園庭にお迎え待つ子草萌ゆる     葛原由起
句に癒えて祈りに癒えて汀子の忌   進藤剛至
春立つや野山一水より弛ぶ      中村恵美
​野分会 二月の十句
​二〇二三年一月の句会より
大とんど校庭に龍立ちのぼる     中村恵美
満天の星にさざめく冬桜       荒井桂子
雪しまき戻ることさへままならず   武藤星江
齟齬もまた神の計らひ初句会     奥村 里
書に託す魂空へ吉書揚        山田翔太
寒禽に目覚むる山の気息かな     涌羅由美
五時までは経理係の雪女       松村史基
明け方の闇に溶けゆく冬桜      岸田祐子
待つことも参拝のうち初戎      塚本武州
左義長や裏の林の闇深し       田中利絵
​野分会 一月の十句
​二〇二二年十二月の句会より
餅配祖母の重箱のみぞ知る      菅谷 糸
指先に紙のぬくもり日記買ふ     花川和久
カラフルに塗り分けられし古暦    田中利絵
鋸の刃を替へることより年用意    塚本武州
料亭の一人娘や餅配         葛原由起
石垣の数多な歴史銀杏散る      藏本 翔
主なき部屋の残り香古暦       武田優子
おすすめのレシピを添へて餅配る   石丸雄介
嘘ひとつポインセチアの緋に沈め   中村恵美
へそくりをそつと剝がして古暦    酒井湧水
​野分会 十二月の十句
bottom of page