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撮影 藤田浩司
哀悼を捧ぐ
花鳥諷詠の未来は
人間も自然の一部であるという世界観を世に訴え、花鳥諷詠のすぐれた俳句を世に示していくこと…
稲畑汀子(2014) 花鳥諷詠、そして未来 NHK出版
去る2月27日(日)
「ホトトギス」名誉主宰で前野分会主宰の稲畑汀子が逝去いたしました
野分会は花鳥諷詠の志を継承していくことをここに誓います
どうぞ安らかにお眠りください
蜻蛉の空のはじまる目の高さ
風強きことを柳に語らせて
砂日傘よりはみ出してゆける影
稲畑汀子 三十句
露の石置きて山路の道しるべ
夏痩の姿もつとも彼らしく
ただ過ぎて霧の彼方にある忌日
夏ばての幹事最後に到着す
山荘の庭の秋草活けらるる
風光るとき海遥か山かすか
冷房の弱より弱にしたき時
野分会春秋
山の月なりしが海の月となる
見えて来し剣岳の主峰岩燕
弾む声闇のどこかに夜の秋
うたかたに賑ふ水面雨蛙
遠目には文字摺草の丈揃ひ
夜空焦げゆくをどんどの闇囲む
瓢の笛吹けば波音風の音
鉦叩めぐる月日のしかとあり
夏帽子木々にまぎれてゆくことに
島人の華やぐひと日針供養
野分会(1994) 合同句集野分会 天満書房より
立ち直るとき色澄みてゆける独楽
花心満開にして三分咲
多分目の笑つてをりぬサングラス
葡萄棚出て風と会ふ空と会ふ
デージーの鉢にかくれてホツチキス
まぎれたるばつたの動き草に追ふ
蜩のもつともひびき合ふ静寂
山の音とも霧走る音かとも
なめくぢの引きづつてゐる所在かな
ねんねこの中の寝息を覗かるる
稲畑汀子
1931年、横浜市生まれ。小学生の頃より祖父・高浜虚子、父・高浜年尾のもとで俳句を学ぶ。1979年、父の死亡により日本最大の俳句結社「ホトトギス」主宰を継承。1982年より朝日新聞「朝日俳壇」選者を務める。1987年、日本伝統俳句協会を設立、会長に就任。2000年、念願の虚子記念文学館を開館し、理事長に就任した。1994年〜1996年、NHK教育テレビ「NHK俳壇」講師・選者、2005年〜2006年、同「NHK俳句」講師・選者。2013年10月、「ホトトギス」1400号記念祝賀会にて、「ホトトギス」主宰を稲畑廣太郎に引き継ぎ、名誉主宰に就任。
句集に『汀子句集』(新潮社)、『汀子第二句集』(永田書房)、『汀子第三句集』(日本伝統俳句協会)、『月』(角川学芸出版)、著書に『虚子百句』(富士見書房)、『俳句と生きる』(角川学芸出版)、『花鳥諷詠、そして未来』(NHK出版)、『俳句を愛するならば』(NHK出版)など、多数。
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